黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

程なくして国王と宰相が入室した。

議長がギルバートを呼び、中央の演壇に立つよう指示する。
フィリーが慌ててギルバートの腕を掴んだ。

ギルバートは不安げな翠色の目を覗き込み、震える手を外してやる。

「オスカーのそばを離れるな」

議会の静かな注目を浴びながら、演壇へ進み出る。

正面の質問台に立ったのはドレバス侯爵だった。
ダークブラウンの髪はきっちりと整えられ、深紅のジュストコールには糸屑ひとつなく、磨き上げた靴は天井の模様を映している。

「先日行われた黒旗騎士団の凱旋を祝う舞踏会で捕らえた、侵入者の尋問が終了しました。いくつか確かめたいことがあります。キール伯爵と、あなたが連れてきた平民の娘について」

ドレバス卿が口の端を吊り上げてフィリーのほうを見る。

ギルバートは今すぐ傲慢な鼻をへし折ってやりたくなった。
あの男のやり方は気に入らない、フィリーを脅かす必要があるか?

「あなたが尋問担当になられたとは知りませんでしたよ、ドレバス侯爵閣下」

余程自信があるのか、ドレバス卿はギルバートの挑発にもニヤリと笑うだけだった。
本気でギルバートを跪かせるつもりなのだろう。

「単刀直入に申し上げましょう、侵入者はミネット人だった」

議場にざわめきが広がる。

すでに確保されているとはいえ、王の背後にいたのは短剣を手にしたミネット人だった。
想像するだけで恐ろしい状況だ。

ドレバス卿が片手を上げ、沈黙を求める。
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