黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「しかし、妙なことを証言しています。狙ったのは国王でなく、王女だったと。皆様もご存知の通り、先日の舞踏会に王女と呼ばれる方はご出席なさらなかった」
質問台を下り、踵の音を響かせて演壇へ向かってくる。
「では、王女とは誰のことか。男はさらに話しました、ミネットの王太子が行方不明になった王女を探していると」
ギルバートは顔色を変えず、議席へ目を走らせた。
オスカーがいつでもフィリーを守れる位置で周囲を警戒している。
ドレバス卿はギルバートの目の前に立ち、侮蔑の込もった微笑みを浮かべた。
「ブラインの町娘とはよく言ったものだ、キール伯爵。ミネット国内ではすでに噂になっているぞ。城に監禁されていた王女を誘拐したのは、フリムランの地獄の騎士だとな。貴様が恋人と偽ってこのルハルドへ招き入れた、亜麻色の髪に翠色の目をしたあの女こそ、我々を苦しめ続けるミネット王家の娘だ!」
議場に怒号と悲鳴が飛び交った。
衛兵が剣を抜き、フィリーとオスカーを取り囲む。
誰もが憎しみと恐怖の入り混じった目でフィリーを睨み、混乱に任せて侮辱を投げつける。
ドレバス卿が甲高い声で叫んだ。
「これは背信行為だぞ! キール伯爵は国を欺き、暗殺者を引き入れて王を危険に晒した。王女がいるとわかればミネットは攻め入ってくるぞ、戦争になる。なにが救国の英雄だ、とんでもない反逆者だ!」
ギルバートは演壇を飛び降り、手近な衛兵の首を掴んだ。
腰に下げた剣を抜き、氷の目で議場内を見渡す。
「背信行為のついでに聞くが、剣を取った奴は全員俺に殺される覚悟があるか」