黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
貴族たちは息を飲んで静まり返った。
ギルバートに捕まった衛兵が剣を手放して両手を掲げる。
フィリーを捕らえようとしていた者たちも、慄いて距離をとった。
ギルバートは衛兵を解放し、大股でフィリーのほうへ歩いていく。
フィリーが首を振って後退りをした。
「来ちゃダメ」
ギルバートは逃げようとするフィリーに構わず、強引に腕の中に引き入れた。
震える背中を撫で、小さなつむじに囁く。
「だいじょうぶだ」
フィリーは細い腕でギルバートを押し退けようとしたが、やがて力尽き、胸の中で大人しくなった。
紛糾した議会に割って入ったのは宰相エルメーテだった。
「議長、件の侵入者について、ギャロワ卿からも報告があるのではなかったですか。彼女が本当にミネットの王女かどうか、すぐには確かめられません。尋問するのは、ギャロワ卿の話を聞いてからでもいいでしょう」
呆気にとられていた議長が慌てて頷く。
立ち上がった貴族たちを席に座らせてから、会議へ戻った。
「ええと、それではギャロワ卿。演壇へ」
オスカーが咳払いをして、クラヴァットをきれいに整えた。
いつものくつろいだ様子で進み出て、中央の演壇に立つ。
「私も舞踏会の侵入者について独自に調査をしました。ドレバス卿のおっしゃる通り、彼がミネット人だとすれば尚不思議なことですが、なぜあの男は易々とラーゲルクランツ城の中心まで侵入できたのでしょうか」
オスカーが指を動かすと、衛兵が書類を運んできた。
雑に目を通しながら、オスカーが肩を落として首を振る。