黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
「これは昨夜の警備兵の配置計画です。不運なことに、城の北側は極端に衛兵の数が減らされています。あなたの指示だそうですね、ドレバス侯爵閣下」
ドレバス卿は無言で乱れた髪を撫でつけていた。
「差し支えなければ、この指示の意図をお伺いしても?」
退屈そうにオスカーを一瞥する。
「本件になんの関係が? 体調の優れない衛兵が数名いたから、休ませるように指示を出した。たまたま北側を担当する者ばかりだったのだろう。キール伯爵があの女を招き入れていなければ、なんの問題もなかった」
オスカーは愛想よくにっこりと笑って頷いた。
「どうもありがとうございます。もう一点、誠に勝手ながら通行証の発行履歴を調べさせてもらいました。三日前に詳細不明の手形を申請されていますが、あれはどなたに?」
ドレバス卿が眉をひそめてオスカーを睨む。
「なにが言いたい」
「男はどのようにして王都へ忍び込んだと証言しましたか? ひとりのミネット人がこの要塞へ侵入し、潜伏して、偶然警備の手薄だった北側を通り、何食わぬ顔で舞踏会に紛れ込むことが可能でしょうか。たとえば敵と内通する者の手助けがあったとすれば、数段は容易だったと思いますが」
沈黙の後、ドレバス卿は高らかな笑い声を上げた。
議場が息を潜めて成り行きを見守る。
「私がミネット人を城に引き入れたと言いたいのか。まったく、突拍子もないな。念のために聞くが、私にいったいなんの目的があって?」