黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
オスカーはいかにも申し訳なさそうに肩を竦めた。
「あなたはキール伯爵の失脚を望んでいた。これは私の推測にすぎませんが、昨夜ギルバートに挑発されて頭に血が上ったあなたは、判断を誤ったのです。王座の間を退出してすぐ、城内に潜伏させていた侵入者を呼び寄せ、舞踏会へ忍び込ませた。あの男はミネットの有力貴族であるランピーニ侯爵から預かった刺客でしょう。キール伯爵を失墜させたかったあなたは、噂を聞いてすぐに計画を思いついた。ギルバートを王女誘拐の罪でフリムランから追放すればいい。ランピーニ侯爵は王女の死を望んでいますから、快く取引に応じたはずです」
「いい加減にしろ、無礼者が!」
ドレバス卿は血相を変えて立ち上がった。
オスカーに人差し指を突きつける。
「貴様の推測で内通者にされるとは、とんでもない侮辱だ。ランピーニ侯爵と私が通じている? 遊び半分の推理ごっこがしたいなら、せめて証拠を揃えてからにしろ!」
オスカーは慌てて首を振った。
「申し訳ありません。内通の証拠は揃っているんです、十年前から」
議場にざわめきが広がった。
ドレバス卿が初めて警戒の表情を浮かべる。
「なんだと?」
オスカーはジュストコールの内側から書類を引っ張り出した。
「これは国王軍が残した十年前の記録です。ミネット軍が国境へ集まっているのを察知したドレバス卿の要請を受け、先代のキール伯爵を指揮官とした少数部隊がすぐにプルガドール湖へ偵察に向かいました。しかしこのときすでにブライン砦が陥落していたことがわかっています。偵察隊は侵略されたブラインに身を潜めていた敵とプルガドール湖で挟み撃ちに遭い、奇襲を受けて大敗した。なぜあなたはブラインではなく、国境に敵が迫っていると指示を送ったのですか」
「そんなことは知らなかったからだ! 砦に駐留していた兵士は皆殺しだった。もし攻撃の連絡を受けていれば、砦へ向かうよう指示しただろう」