黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

3.

男たちに追いかけられ、森の中を走っていた。
漆黒の騎士が迎えにきて、逃げ惑う男の叫び声と銃声がこだまする。

ミネットの男たちが口々に恐怖したように、たとえ悪魔がフェリシティを地獄まで連れていくのだとしても、あの力強い腕を恐ろしいとは思わなかった。

フェリシティがまつ毛を震わせる。
目を覚ましたとき、やわらかいベッドの上にいた。

泉下への道はまだ半ばらしい。

フェリシティはゆっくりと身体を起こした。

狭いアルコーブベッドは分厚いカーテンに隠され、日差しを遮っている。
手を伸ばしてカーテンの隙間から部屋の中を覗き込み、フェリシティは光に目を細めた。

室内はそれほど広くない。
装飾も家具も必要最低限で、どちらかといえば殺風景だ。
高窓の向こうに見える空は黄昏の茜色をしている。

すぐそばにある椅子の上で騎士が眠っていた。

男は、妖精がとっておきの魔法をかけたかのように端整な顔立ちをしている。
でも悪魔とは得てして美しいものだから、ミネットの男たちが彼を地獄の騎士と呼んだのは、そういう訳だったのかもしれない。

フェリシティは静かにベッドを下り、破れたドレスの裾を引きずって男に近づいた。

シャツもズボンもなにもかも、彼が着ているものは真っ黒だ。
ちらりと見える首筋の肌色がやけに目を奪う。

肩は広く、規則正しく上下する胸は厚く、腹の上で組んだ指はゴツゴツしている。
それに、男の人はみんなこんなに脚が長いのだろうか。
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