黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
ドレバス卿がついにオスカーに掴みかかったとき、国王リチャードが静かに立ち上がった。
スッと片手を上げた途端、議場は沈黙に支配される。
リチャードは冷淡に判決を告げた。
「ギャロワ卿は証拠を提出しなさい。ドレバス侯爵を連行しろ」
衛兵がドレバス卿を取り囲んだ。
両腕を拘束され、演壇から引き摺り下ろされる。
「陛下! こんなものはデタラメに決まっています。お願いです、どうか私の話を聞いてください!」
髪を乱し叫びながら議場を連れ出されるドレバス卿に見向きもせず、国王と宰相が退出していく。
リチャードはフィリーを餌にして、裏切り者を誘き出そうとしていた。
そして見事に成功させたのだ。
ギルバートとオスカーさえ、リチャードの手の中にある駒のひとつにすぎない。
そうだとしても、ギルバートはようやく父親を陥れた男にふさわしい報復を与えることができる。
ドレバス卿が惨めに喚く声が廊下に響き渡っている。
最高の気分だった。
関節が白くなるほど強く握り込んだ拳に、フィリーが優しく手を重ねる。
ギルバートはまるで縋りつくように、その小さな手を握り返した。