黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい
14.
フィリーはノックの音で顔を上げた。
両手を握り合わせ、寄る辺なく立ち尽くす。
「はい、どうぞ」
ドアを開けたのはカミラだった。
「朝食をお持ちいたしました、王女殿下」
カミラはつま先に向かって強張った声で話しかけ、運んできた食事を急いでテーブルに並べた。
「あ、あの……私、あなたに謝りたくて……本当のことを黙っていてごめんなさい」
フィリーが言葉に詰まっているうちにくるりと背を向けてしまう。
「失礼いたします」
床を睨んだまま立ち去り、固くドアを閉ざす。
フィリーは肩を落とした。
椅子に座り、熱い紅茶を飲んで涙を堪える。
ギルバートが泣くなと言ったから。
よく考えて、一番いい方法を見つけなくてはいけない。
今すぐにミネットが犯したすべての罪を償うことはできなくても、フィリーが吐いた嘘を謝ることならできると思った。
でも、うまくいかないことばかりだ。
五日前、リチャードにキール伯爵邸での謹慎を言い渡されてから、ギルバートにさえ会えていない。
王太子マリウスとの交渉で忙しいのだとわかっている。
今朝も夜が明ける前に出ていった。
日時と場所と兵士の数、フィリーの身柄を引き渡すための条件を協議し、三百年間戦争を続けた両国が納得する取引を成立させなくてはいけないのだから。
たとえわざと避けられているとしても、ギルバートは正しいことをしている。
フィリーの身分が明かされた以上、恋人ごっこを続ける意味はない。
なにもかも元に戻るだけ。