黒騎士は敵国のワケあり王女を奪いたい

フィリーは納得して頷いた。

国王陛下に腹を立てているなんて嘯いても、ギルバートは十年を国のために戦った忠実な騎士だから。
いつも冷静で、フリムランの英雄にふさわしい正しさを選択できる。

「マリウスが私の死を望むとすれば、正統なる血筋を持つ子息に王位を継承したときではないかしら。私をブロムダール城に幽閉すると言い出したのはマリウスだし、これをくれたのも彼よ」

フィリーはマーガレットの黒いチョーカーに指をかけて引っ張った。

ギルバートがいきなりフィリーの両肩を掴んで振り向かせる。

「きみのそれはくそ野郎の贈り物だったのか!」

ガクガクと揺さぶる勢いで問い詰められ、フィリーは慌てて首を振った。

「違うの、ごめんなさい。言い方を失敗したわ。取り上げられていた母の形見を、マリウスが返してくれたのよ」

ギルバートがまたフィリーの語彙を豊富にするような悪態を吐く。
フィリーを腕の中に戻して、強く抱きしめて黙り込んだ。

ただ深い霧の闇に隠れ、夜明けに怯えるように身を寄せ合う。

ギルバートの指に顎を持ち上げられ、最後に一度だけキスをした。

雲の隙間から星が覗く。
ギルバートがフィリーから手を離してオールを握った。

ふたりの永遠を、神様に返しにいかなくては。
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