ある日、ビルの中、王子様に囚われました。

優しく諭す様に言う。
けれど、この人は私になんでそんな言葉を言うんだろう。

「会って一時間もしないでその言葉は、流石に信じられません」
「信じるも何も、うんと頷くだけで自由になれるんですよ」

この人、もしかして詐欺師?
身を捩って逃げると、意外にも追いかけてはこない。
けれどドアノブを握ろうとした私の背に、優しく言葉を投げかけてくる。

「今自宅に帰れば、ご両親がいるかもしれませんね」
「!」
「そしてギスギスした、親族会議と言う名の金の前で罵り合う人たちの前で晒され、ほぼ軟禁状態になるでしょうね」

「お、脅しですか」

「副社長である俺と、内孫である貴方が結婚すれば、そんな醜い争いはしなくて済むってことです」

「つまり、私じゃなくて会社の為に結婚してってこと?」

顔も普通。借金、昨日で無くなった。貯金、雀の涙。
胸、貧相。どれを並べてもこの人のスペックに見合うものは何もない。

なのに、この人はそんな私でも会社の為ならば結婚するってこと?


「君はそうかもしれませんが、俺は貴方を想っていましたから」
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