ある日、ビルの中、王子様に囚われました。

ビルの6Fの日本料理屋に連れて行かれ、窓辺の景色が良い場所へ案内され、ガツンと言うはずが、美しいご飯の前で感動してしまっていた。

「こんな美味しくて繊細なご飯、今まで食べたことなかったです」

恐る恐る口に入れれば、出汁の聞いた数々の料理に箸が止まらなかった。

「それは連れてきて正解でした。普段は自炊されてるんですか?」

私の食欲に満足そうに頷きながら、天宮さんはお茶を飲む。
私だけがッついてる気がして恥ずかしかったけれど、止まらない。

「はい。昨日までは主にもやしですね。もやしに中華系の出汁と片栗粉であんかけにして食べたら白ご飯何杯もイケます!」
「もやし……を?」

「はい。もやしは私の近所では19円です。それに大量に作って小分けにし冷凍したあんをかけるだけです。一食100円以下で給料日前にはいつもお世話に――」

御出汁の効いた鯛の茶漬けを完食しながら、ハッと我に帰る。

ここのランチは確か数千円から。
それなのにもやし料理で安い時間なんてしてしまって、育ちがバレバレじゃない。

「す、すいません。こんな美味しいご飯中に」

< 16 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop