ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
一、狼に着いて行ってはいけません
やっと短大の奨学金を返し終わった給料日の次の日だった。
休みを取っていたのでいつもより寝坊していた朝。
携帯のアラームで起こされた。
カーテンの端から光が漏れて顔に突き刺さってきたが、意地でも起きたくなかったので布団にもぐる。
折角の休みを、満喫しなきゃ勿体ないでしょ。
なので、アラームを全部消してやろうとしたら、アラームではなく兄からの電話だった。
「……もしもし、何?」
『大変だ。さっさと逃げろ』
「……逃げるって?」
『じいさんが危篤らしく、母さんと父さんがお前のマンションへ向かった』
「――ええ?」
高校を出て以来会っていない両親の襲撃と、兄の電話で初めて知った祖父という存在。
それは私の奨学金を返し終わり、晴れ晴れとした日常が始まろうとしていた朝を、ガラガラと壊す一撃だった。
「逃げるって、なんでこの家特定されてるの?」
『話はあとだ。俺が信用している人をそっちに寄こすから。もう着くと思う』
「待って。なんでお兄ちゃんじゃなくて私なの?」
『詳しいことはあとだ。急いで準備してくれ。会社にはしばらく休暇を貰えるように手配してもらうから』
「まっ」