ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
綺麗な顔は、くしゃくしゃに顔を破綻させるだけではなく、目を丸くさせて固まることもできるらしい。
数秒固まった天宮さんは、メガネのフレームをあげながら咳払いする。
「エレベーターが来ました。乗ってください」
「天宮さん、お願いします。それか、ちゃんと昼食代を受け取ってください」
エレベーターが閉じないように押さえる。
さっき出てきたお店にも声が響いたのか、暖簾越しの此方を伺われたけれど、視線は天宮さんを見たまま逸らさない。
ここはどうしても私の意見も聞いて貰いたい。
「君は今、仕事は有休を――」
「お願いします。事務なら何でも出来ます。何でもします。お茶くみでも、コピー掛りでもパシリでも何でもします」
一歩近づいて、畳みかけるように言うと天宮さんは一歩下がる。
なのでまた二歩、近づいていく。
「お願いします! お願いを聞いてくれるまで、絶食します」
さっきの御馳走を、2、3日分の食事だと思えばそれぐらい乗り切れる。
「――取りあえず、他のお客様のご迷惑になるので乗ってください」
はあっと大きくため息を吐かれ、ちょっと心が傷ついた。
「その服装でオフィスには連れて行けませんので」
「天宮さんっ」