ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
簡単に、――簡単に知らない人の車に乗って、こんな素敵なビルの中に囚われてはいけない。
気付いた時にはもう遅いのだから。
半泣きになりながら、彼の笑顔に迫力にただただ頷くことしかできなかった。
「そうと決まれば、一端ホテルの部屋へ戻りましょう」
「えええ何でですか?」
今、本当にたった今、覚悟を決めたのに。
「婚約者なのだから、そのスーツではおかしいでしょ」
「え、でも私、これ以外のスーツって持ってないですよ」
確かに入社した時に買ったから古いけれど、一応頑張って買ったブランド服だし、大切に大切に来ていたのですが……。
「ちょっと待っててください。その間、部屋で待ってて下さいね」
優しく言われても、この服は駄目だと暗に言われている気がして凹んだ。
そんなに私ってダサいの?
いや、このビルの水準にあってないのかもしれない。
確かに会ってない気がするけれど。
部屋に戻って落ち込んでベッドに倒れ込んだ。
けれど、ランチはもう頂いた。
うちの親がおじいちゃんの会社にすごく迷惑をかけた。
この事実は変わらないし覆らない。