ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
上手く丸めこまれている気がする。
けれど、ホテルの部屋で一日中過ごして無駄にするよりは、有効な過ごし方だ。
そう思いこむしかなかった。
髪をセットしながら化粧をしつつふと、天宮さんの様子を覗いた。
ソファに座って足を組み換え、手首の時計を見ている。
きっと仕事に戻らないといけない時間なのだろう。
それでも私にはそんな様子を見せることもなく、上手に自分を隠してる。
良い人なのは分かる。仕事もできて、私みたいな平凡OLにも態度を変えることなくこんな風に優しくしてくれて。
「今、お祖父ちゃんが大変な時に、副社長の天宮さんだって忙しいはずなのに、私のせいで時間をとってしまってすいません」
ひょこっと脱衣所から顔を覗かせて顔色を伺うと、やはり彼は首を振った。
「貴方は周りの空気を読み過ぎる。気にする必要はないよ」
「でも、こんな風にここに匿ってくれたし」
親に産んでもらったことは感謝しつつも、お金関係の事では信用できないし嫌な気持ちになるのは本当だった。
自分の親の容体よりも、財産の分け前について顔を真っ赤にしている様子を見せられたら私もきっと嫌悪してしまうと思う。