ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
着替え終わった私に、彼は立ち上がって近づくと満足そうに目を細めた。
「そんな君を、綺麗に着飾りたいと思うのは俺の勝手だ。君はやはり、俺が幸せにするために生まれてきたんだろうね」
頭を撫でられる。
まるで、今まで頑張ったねって、私の貧乏臭い話を受けとめてくれたように。
彼が私に、自分の生活からほんの少し恵んでくれているのは、優しいからか同情からか。
「行こう。社員の反応が楽しみだ」
どれでも、そうやって私が安心する様な、優しい言葉や態度、そして雰囲気をくれる。
全て包み込んでくれる様な、彼の存在。
隣に居て、胸が熱くなる。
本当に婚約して、ずっと一緒に居られたら私はどんなに幸せなんだろうか。
「ちょっと失礼」
彼が屈んで顔が近づく。
息を飲む間もなく、たった数秒。
ただエレベーターのボタンを押しただけだった。
ボーっとしてなくて私が押さないといけなかったのに。
ただ近づかれただけでも、胸が弾けそうなほどドキドキする。
……このビルの中、最初に囚われたのは私の気持ちかもしれない。
隣に居たいだなんて、甘い夢をみようとしてしまったのだから。