ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
「社長の件が収まるまで、仕事の手も借りたいし手元で守りたいのでさらってきました。君達には迷惑をかけないから苛めないでね」
「よ、よろしくお願い致します。地――」
「天宮咲良さんです」
私が名字を言うのに被せるように、自分の名字で紹介された。
社員の方々も大人の対応で、一礼してくれた。
表情までは確認できなかったけど、突然現れた私を不審に思ったに違いない。
「では、君には奥の社長室で秘書の仕事を説明したいので黒岩に紹介するね」
「はい」
いつもより早口で捲し立てられるような、慌ててオフィスから締め出される様な様子に私もわたわたする。
「ダメじゃないか。名字言ったら社長と縁があるって感づかれるよ。それだけならマシだけど、――君の父親が誰かばれたら大変ですよ」
「そ、そうでした。すいません」
「うん。素直なのは大変よろしい。では、こちらに」
奥の部屋に通されると、既に三人の男性が電話対応やパソコンで作業をしていた。
「経理の酒崎さん、社長の秘書の黒岩さん、顧問弁護士の新澤さん。こちら、昨日お話していた咲良さんです」
簡単に名前を紹介され、今度は余計なことを言わないように深々と頭を下げる。
秘書の黒岩さんは、年配の白髪が上品な男性だったけれどあとは天宮さんぐらいの若い人で優しそうに微笑んでくれた。