ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
「副社長、奥さんが怯えてますよ」
「おくさん!?」
黒岩さんに微笑まれたはいいが、思っても居ない言葉に慌ててしまった。
「違いましたか。副社長はプライベートをあまり話さないので、ご結婚されていても不思議が無かったのでつい」
「あは、あはは」
どう答えようか、恋人でないと言えば彼に迷惑がかかるのかな?
先ほどの発言も事もあり、ちらりと視線を送る。
「プロポーズの返事待ちです。怯えさせないでくださいね」
「なるほど。それは良いことですね」
「会議が終わらないのによくもまあ呑気にプロポーズなんてするな」
「このゴタゴタ中だからこそ、婚約者を一人にしたくない気持ちは分かりますよ」
三人から同時に発せられた言葉に、どう対応していいのかあたふたしているが天宮さんは小さく笑って簡単に流してしまった。
「酒崎さん、昨日お願いした書類出来てますか? 黒岩さんは社長の様子はいかがでしょうか」
私に席を促しながら指示をすると、新澤さんにだけは『会議へ戻って下さって結構です』と笑顔で言って驚いた。