ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
エレベーターを降りる中、いい加減自分の胸がうるさいのでやんわりと手で距離をとる。
「か、肩、離して頂いてもいいでしょうか」
「ああ、忘れていた。嫌ですね」
「!」
二人しかいない密室で、更に肩まで抱き寄せられて、この人は私に死ねと言っているのか。
こんな風に男性と密着することもないし、意地悪言われることもない経験不足の私にはこの雰囲気が耐えられない。
「冷や冷やしました。ご両親に浚われるかと思ったら会議なんてどうでもよくなって慌てて飛び出してきてしまった」
「すみません。私も自分の親なのに動向が全く分からないんです」
学費を使いこんだ後、家に全く帰って来なくなったので今はどうしているのか分からない。一人暮らししてから、家に帰っても居ないし。
「お金を盗むならまだいいんです。でも貴方は一人しかいないから」
「それって、ど、どういう意味ですか?」
耳までじんじんと熱くなった。きっと猿よりも真っ赤になっているに違いない。
それなのに、勇気を出して見上げた天宮さんは笑うだけ。
「貴方の気持ち次第で、意味は変わると思います」