ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
私の気持ち?
耐えられなくなってバッと肩を抜いて天宮さんから距離を取った。
タイミング良く一階に到着したので、そのまま飛び出してホテル用のエレベーターのボタンを押した。
「……そこまでガチガチに意識されると、嬉しいですね」
近づいてくる天宮さんに、エレベーターが下りて来るまで観賞植物の裏へ逃げ込んだ。
「天宮さん、お兄ちゃんと大学が一緒だったんですね。新澤さんも」
「ああ。話してなかったかな?」
警戒している私をクスクスと笑いつつも、簡単にそうだよっと頷いた。
「明良が大事にしてるからそこで君を知ったんだ」
「……そこで?」
首を傾げた私に、下りてきたエレベーターの扉を押さえて中へ促す。
エレベーターは、外の景色が見えるようになっていて私は窓ギリギリまで逃げ込みつつも、その話の続きを待った。
「バイトバイトと忙しそうな明良が、たまに電車を使ってあるカフェに行くんだ。そこで俺は君に会ってる」
「……知らなかった」
「明良が、自立するために離れている妹の様子を見ていたなんて、信用してないみたいで申し訳ないからって言ってたよ。だから、――明良にはナイショだよ」
じりじりといつの間にか近づいてきた距離。
壁と天宮さんの隙間に挟まれて逃げ場はない。
視線を逸らした先のフロア表示は、まだ8階。
45階まで永遠だと錯覚しそうになるほど時間が長く感じた。