ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
今、私が到着したこの場所は私の今までの極貧生活とかけはなれた別世界。
ここら辺で働くOLならば、知らない人はいない。
けれどおいそれと近づけない場所。
『B.C. square TOKYO』だ。
此処のランチなんて予約何カ月待ちとか、ジムはお金持ち専用の会員制だとか、各国の重役が泊まる部屋があるとか。
セレブな噂しか聞いたことのない場所だ。
見ただけで足が震えてくる。
ビルの頂上ばかり見上げていたせいか、ビルの一階から此方に向かってくる人に気付いていなかった。
「……どうされましたか、咲良さん」
「え、いや、あの緊張してまして」
「ああ。このビルですね。初めてですか? 荷物お持ちしますね」
有無も言わさず、けれどスマートに私の荷物を持つとエスコートしてくれた。
展開について行けず、おろおろしている私に落ちついた低い声で言う。
「話は――中に入ってから詳しくします」
「お、お願いします」
頷くと、彼も頷いた。
そして慣れた手つきでエレベーターまで連れて行かれ、私はビルのエレベーターホールの広さに目を回しそうになりそうなのを必死で耐えた。