ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
「エレベーターは、各階ことに別れているので、注意してください」
「は、はい」
「まあ君は覚える必要はないです。俺の傍に常にいますので」
いちいち甘ったるい笑顔で、甘ったるい雰囲気で、そんな言葉を吐かれたら、胸の動悸がおかしくなってしまうのは当たり前だった。
「それで今から向かう場所は……」
「ああ、しばらく身を顰めてもらえるようにホテルに部屋を取ったんです。生憎、急だったのでスイートルームは無理だったのですが、空き次第そちらに移りますので」
「すい、スイートルーム!?」
「どうかされました?」
私の驚きように、目を丸くした彼は首を傾げる。
どうみても私みたいな庶民とは住む世界が違うとは思っていたけど、自覚がない人なんだ。
「貧乏なOLにスイートルームなんて無理です。無理です」
スイートルームではなくても、こんな豪華なビルだ。絶対に高いはず。
きっと数日で私の給料は消えてしまう。
「大丈夫です。このビルに居る間の貴方の生活費は全て俺が支払いますので」
「そんな、兄の知り合いにそこまでしてもらうなんて」
あたふたしていたら、エレベーターは45階に到着した。
「ご心配なく。知り合いだけなら俺だってこんなおせっかいしませんよ」