ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
再び、ビルの中、囚われました。
スーツに大きな荷物を持ってビルのエントランスを歩く。
まるで家出娘みたいな酷い恰好で、なんだか泣けてきた。
が、これでいい。
いつまでも囚われたままで夢を見ていいわけじゃない。
私は小さな印刷会社で事務をする一般人だ。
明日から、またその生活に戻るだけ。
朝起きて、カーテンを開けたら冷蔵庫から牛乳を取り出して、パンを焼いて食べる。
頬張りながら着替えて、化粧をしつつ歯を磨き、バス停に走る。
バスで駅に向かい、3駅をひたすら揺られ足を踏ん張って耐える。
ただ給料日前のもやしご飯じゃなくなった。
月に一回ぐらいは、駅前の牛タンランチに並んでみようかな。
そんな事を考えながら、ひたすら出口へ向かう。
「咲良さんっ」
ただし、私の足を止めるのはたった一言だ。