ある日、ビルの中、王子様に囚われました。


再び、ビルの中、囚われました。

スーツに大きな荷物を持ってビルのエントランスを歩く。

まるで家出娘みたいな酷い恰好で、なんだか泣けてきた。

が、これでいい。

いつまでも囚われたままで夢を見ていいわけじゃない。

私は小さな印刷会社で事務をする一般人だ。
明日から、またその生活に戻るだけ。
朝起きて、カーテンを開けたら冷蔵庫から牛乳を取り出して、パンを焼いて食べる。

頬張りながら着替えて、化粧をしつつ歯を磨き、バス停に走る。

バスで駅に向かい、3駅をひたすら揺られ足を踏ん張って耐える。

ただ給料日前のもやしご飯じゃなくなった。

月に一回ぐらいは、駅前の牛タンランチに並んでみようかな。

そんな事を考えながら、ひたすら出口へ向かう。

「咲良さんっ」

ただし、私の足を止めるのはたった一言だ。

< 73 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop