ある日、ビルの中、王子様に囚われました。
天宮さんの冷静で、優しい声。
その声が私を呼ぶ。
急いで走りだした私の前に、ネクタイを揺らしながら影が通せんぼした。
「咲良さん、待って下さい」
正面に回り込んだ天宮さんが、私の顔を覗きこむ。
荒く乱れた息に、私を探して走って来てくれたのだと分かった。
「こ、これ以上はお邪魔になるので帰ります」
私を匿っているとばれたら、天宮さんのことを親族は悪く言うだろうから。
「俺の話を聞いていましたか?」
「……どの話でしょうか」
会議中は、財産について叫んでいた女子の事しか思い浮かばない。
「俺と結婚してくれるまで、ここから出してあげません、と」
その声は、一番最初に出会った時みたいに甘い笑顔と蕩ける様な囁く声で、私を簡単に真っ赤にさせる。
「解決したので、帰っても問題ありませんが、帰してあげたくないんです」
腕を掴まれ、そのままスルスルと肩にかけてあったバッグが落ちてくる。
天宮さんはそのバッグを奪うと、今度はそのまま引き寄せてエレベーターの方へ向かう。
「や、は、はなしてくださっ」
迷惑になりたくないのに。
お祖父さんに必要なのは、私みたいな親族ではなくて、会社を支えてくれる天宮さんみたいな人なのに。