ある日、ビルの中、王子様に囚われました。

「会わせたい人が居ます。会議室へ」

しっかり腕を掴まれて、再びあの地獄絵図の様な会議室へ連れて行かれる。

怖いけれど、でも解決したって?
先に囚われたのは天宮さんだとか、色々と次から次へ幸せな言葉ばかり聞こえてきて戸惑ってしまう。

歩いている床が、ふわふわとマシュマロみたいに柔らかく感じて上手く歩けない自分がいる。


「いい? 入るよ」

天宮さんは、悪戯っ子みたいな子供みたいにウインクしてから会議室をノックした。

そして返事もしないまま中へと入った。

「社長、連れてきました」

――社長?

その言葉に固まる。
が、天宮さんに掴まれたまま中へ入ると、静まりかって会議室の中、ピンと真っ直ぐに立つ背中が見えた。
会わせたい人って社長だったんだ。

あの騒がしかった親族たちが、真っ青になってその背中の人を見ている。
磨かれた革靴をカツカツと慣らし、私の方へ振り向いた。

「さっきはお見舞いありがとう。咲良さん」

「お、じいさん?」

自分の口から零れた言葉に、自分でも驚いた。
たった今さっき、お見舞いに行った。
真っ青な顔で眠っていたお祖父さんではなく、凛々しく上品な佇まいで私を見る男性。

「すまなかったね。天宮の提案で、病気で倒れたふりをしていただけなんだ」

「倒れたふり?」

「そうだ。私が倒れたと知り、会社の害になっていた親族はどう動くか、誰がお見舞いに来るか――会社の今後の事を考えて調べようとね」

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