ヴァージンロード <続>Mysterious Lover
1. 国際電話は嵐の予感
『今日もそっちは雨なの?』
「うん。もう3週間くらい太陽見てないね。来週あたり、腕からキノコ生えるかも」
オレが言うと、パソコン画面の向こう、奈央さんの顔がほころんだ。
数十センチ——。
ほんのわずかな距離にある、鮮やかな彼女の笑顔に。
ふと、錯覚してしまう。
手をのばせば、その頬に触れられるんじゃないか……
その唇に、キスできるんじゃないか……って。
でも、そこには冷たく硬い液晶ディスプレイがあるばかりで。
肌の柔らかな感触も、ぬくもりも。感じることはできず。
オレは一人、テーブルの下でこぶしを握る。
『行ってみたいな。バンクーバー』
「うん。夏には遊びにおいで。日本みたいに蒸し暑くなくて過ごしやすいし、晴れ続きで観光にはぴったりだから」
『うん。そうね……』
ふと微妙に、その表情が曇ったのを見て、椅子から背をはがした。
「奈央さん、どうかした?」
するとためらいがちに、彼女は口を開いた。
『あの、ね……ミス・トレヴィスって……拓巳の知りあい?』
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