ヴァージンロード <続>Mysterious Lover
工藤がオレの血縁上の父親であることは、まだ幼かったけど、なんとなく理解してた。
でも、友達が『パパ』とか『お父さん』とか呼ぶ存在とは、違う人として認識してた。文字通り、あいつは『父親』。それだけだった。
その頃ね、オレには『先生』って呼んで慕ってる人がいた。
体が弱くて、よく熱を出してたオレの、かかりつけ医っていうのかな。
総合病院の小児科の医者。つまりそれが、親父……吾妻誠司だった。
吾妻先生は、いつも穏やかで優しくて。
オレは先生が大好きだった。
先生の顔を見ただけで、もう風邪なんか治った気がしたっけ。
先生は、オレばかりか、お袋までも時々傷をつくっていることに気づいて、
それとなく聞いてくれたんだけど、お袋は決して何もしゃべらなかった。
でも、先生は事情を察してくれたんだと思う。
ちょくちょくうちを訪ねてくれて。
ほんの30分とか、そのくらいだったけど、オレは何よりその時間を楽しみにしてた。
先生が来てくれると、お袋は本当に安心しきった顔でよく笑って。
そんなお袋を見ているのが、オレはすごくうれしくて。
先生が、もっとずっとうちにいてくれたらいいのに。
帰らなければいいのに、って思ってた。
そして……あの夜がやってきた」