ヴァージンロード <続>Mysterious Lover
——ほ、ほら! ご飯食べましょう! ママお腹すいちゃった!
お袋が会話を打ち切るようにそう言って。
無理やりオレを椅子に座らせた。
オレは不満だったけど、絶対あきらめるもんかって思ってた。
お袋が作ってくれたごちそうを食べながら、
この人を『パパ』って呼べたらどんなに幸せか、そればかり考えてた。
和やかに食事は進んで。
ケーキを出そうかって、用意を始めた時だった。
先生のカバンからはみ出した携帯が、震えてた。
先生とお袋は、楽しそうにしゃべりながらケーキにろうそくを立てていて、
それに気づいたのは、オレだけだった。
まだ出初めの頃の、分厚い携帯。
ディスプレイには、ガキのオレには読めない、難しい漢字が表示されてた。
オレは、その着信が病院からで、先生が呼び戻されてしまうんだって思った。
以前にも急患の連絡が入って、先生が帰ってしまうことがあったから。
オレは、先生に帰ってほしくなくて、どこにもいってほしくなくて、
震え続ける携帯を、そっと押入れの中に……隠したんだ。
先生は何も気づかず、お袋と一緒に笑ってた。
その日以降、先生はもっと頻繁にアパートを訪ねてくれるようになって。
だんだん、うちにいる時間も長くなっていって……
オレは単純に喜んでいた。