ヴァージンロード <続>Mysterious Lover

なんだこれ。
オレ……どうしちまったんだよ。
……声が、でないっ。

——えっと……あの……っ

言葉を失うオレを、悩んで決められないのだと勘違いした奈央さんはにっこり笑って、「おすすめは、チーズケーキですよ」と、テーブル上に置かれた手書きメニューを指した。
ネイルなんか塗ってない、短い桜色の爪。白く細い指……。
見とれながら、オレはなんとか言葉を絞り出した。

——あ。じゃあ……それと、コーヒーを。あの……ブラック、で。

——はい。少しお待ちくださいね。

写真でもキレイな人だと思ったけど。
実物は、何倍も、何百倍も、素敵で。

オレは、真っ赤になっただろう顔を、隠すように下を向いていた。

遠巻きに女子たちが何か騒いでいたような気がするけど。
そんなの全然耳に入ってこなかった。

男一人、カフェでケーキセット。
笑いたいなら笑え。

恋に、落ちる。
あぁ。それだ、と思った。

落ちる。
穴に落ちたみたいに。
他の何も、見えなくなる。
底から見上げる、青空みたいに。
その人以外の、何も。見えなくなる。

そんなこと、本当に起こるんだな——
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