ヴァージンロード <続>Mysterious Lover
カチャッ……
間近で音がして、オレはハッと顔をあげた。
奈央さんがオレとお盆の上のカップを見比べて、悲しそうに眉をさげていた。
——ご……ごめんなさい。ブラックでしたよね。あぁバカ! カフェオレもってきちゃった! やだやだわたしっ! すぐに替えてきますねっ。
急いで戻ろうとする奈央さんを「だ、大丈夫です! オレ、カフェオレ好きなんで!」って引き留める。
おいおい、ブラックじゃなきゃコーヒーじゃない、とか言ってたのは、
どこの誰だっけ?
でもこの際、そんなことはどうでもいいっ。
——ほんとにほんと……?
申し訳なさそうにオレを見つめる彼女は、ほんとにほんとに、かわいくて。
——はい、ほんとにほんとです! 大好きなんです!
もはや何が大好きなのか、わからなかったけれど。
オレは……暴走しそうになる心臓を、必死に。
もう必死に、なだめながらリピートした。
——ありがとうございます。
ほっと息を吐いて、その人は微笑む。
心臓が、鷲掴みされたみたいに、ギュッと甘くきしんだ。
その日のチーズケーキとカフェオレは
今まで味わったどんなものより、幸せな味がした。