ヴァージンロード <続>Mysterious Lover
「おおい亀井くん、ちょっとこっち、手伝ってー」
高林さんの声に救われたオレは、中里さんに頭を下げ、その場を離れた。
こっそり、ため息をつきながら。
余裕なんて、あるわけなかったから。
何しろオレは……
奈央さんから好きだって言われたことがない。まだ一度も。
もちろんそれには彼女の過去が関係していて、
仕方ないってことは理解してるつもりだ。
言葉にしなくても、オレを想ってくれていることは感じているから。
でも……
確かな言葉が彼女の口から聞けたらと、
時々欲張りなことを考えてしまう——
◇◇◇◇
店内の奥のスペースを借りて撮影が始まると、さっきまで緩い雰囲気は立ち消えて。
高林さんの視線は、身体は、一瞬も留まることなくキビキビと動き始めた。
カット数は多くないものの、大きく引き伸ばされるポスター用の撮影は、
その分1カットにかける時間と準備がハンパない。
「もう少し上、じゃなくて、右、そう、そこで止めて」
「違う、そうじゃない、もっと寄って」
「次、そっちのやつをもう少し前に寄せてみよう。あと5ミリ行けるかな」