ヴァージンロード <続>Mysterious Lover
助手席に乗り込んで、「早く出せっ高円寺まで!」と叫んだ。
「何焦ってんのよぉもお」
不満たらたらの口調とは裏腹に、車はわずかな振れもなく、なめらかに走りだした。
病院の駐車場から出て一般道にのると、グンと加速して。
ゆるやかな圧力が、オレをレザーシートに押し付ける。
「……何よぉ、なんか怒ってない?」
おもしろがっているようなその声に、オレはカッとなった。
「怒るだろっ! おまえがオレの元カノとか適当なこと言ったせいでこじれてんだからな!?」
「元カノ……あぁエックスガールフレンドのことね」
ふふふ。と笑う声。
「笑ってる場合か! 奈央さんにもしものことがあったら、お前ただで済むと思うなよっ」
今にも彼女があの男に組み敷かれてる映像が浮かんでしまって。
オレは乱れる呼吸を必死で押さえこんだ。
ふいに。オレの思考は「きゃははははっ」ってお気楽なはしゃぎ声に中断された。
殺気を込めたオレの視線をものともせず、
「タクミって、昔から変わらないわねえ」
と分厚い真っ赤な唇が皮肉気に持ち上がる。
「世界のトップレベルで勝負できるスマートな頭持ってるくせに、ナオが絡むと、全然フツーの男になっちゃうんだから」