愛を教えて
「……持ち歩いてんのかよ」
「そりゃな。大事なものだから」
「………」
笑顔でさらっとそんなことを言う九遠に思わず無言になった。
メイク落としが大事とか怖い。
「いや違うから。こういうときのために深海用に用意してるだけだから」
あたしの表情に思考を理解したのか慌てて否定してきた九遠に
「わかってるよ」
ただ、他の人がそれ聞いたらヤバい奴だと思うんだろうなと思っただけだ。
「もう良いから早く落とせって」
無理矢理話を逸らしたセンセーに笑いながらメイク落としを受け取り化粧を落とす。
「今日はこんな感じですよ。いつもよりマシでしょ?」
おどけた感じで言ってみせると眉間に深い皺を刻んであたしを見る九遠に眉尻を下げる。
久遠がそんな顔をする理由。
それはあたしの顔に痛々しい大きな痣があるからだ。
「そんな顔すんなよ。こっちまで哀しくなるだろ?」
九遠の頬にそっと触れると、掌にすり寄るように頬を寄せてきた九遠に
「大丈夫だって。ほんと心配性だな、あんた」
安心してほしくてそう小さく笑った。
「辛そうな顔で笑われたってなんも安心できない」