私を作る、おいしいレシピ

「別に、嫌いじゃない。先生には言わないから安心して。でも行くね。ごちそうさま」

「おい待てよ」


呼び止めたのは、大きいヤンキーの方。


「お前、名前は?」

「名前聞くときは自分からいうものよ」

「けっ、面倒くせーな。俺は仲道一(なかみち はじめ)。ほら今度はお前の番」

「……東條瑞菜(とうじょう みずな)」


ぼそりと言ったら、仲道くんは目を丸くする。


「水菜? マジ? 水菜、うちの畑で育ててんだぜ。俺好きなんだ。旨いよな」


一瞬ドキッとしたけれど、旨いってそれ、違う“みずな”だよね?


「野菜じゃないよ。漢字違う。“瑞々しい”の瑞の字に、菜っ葉の菜で瑞菜」

「みずみずしい、字がわかんねぇ」

「アホね。あんた」

「うるせー。まあいい、みずな」


いきなり呼び捨て?
しかも発音が野菜の方の水菜なんだけど。


「なに? 仲道くん」


名字もわかったので私はこっちで呼ぼう。
ヤンキーよ、言わずとも理解して。これが初対面の人間との正しい距離の保ち方よ。


「明日もおにぎり作って来いよ。ひとり二個だから六つな」

「六つ?」

「俺と誠と、お前の分」

「なんで私?」

「口止め料だよ。その貧相な体見てたら放っておけねぇよ」


そういいつつ、仲道くんはコンビニ袋から雑誌を取り出す。
どうやらグラビア誌らしく、めくられたページにはほぼほぼヌードだよっていう格好の巨乳美女がババンと載っていた。

私は割とポーカーフェイスな方だけど、不意打ち過ぎて顔が赤くなるのを止められなかった。


「ばっ……エッチ!」

「おー、男なんてみんなエッチだよ。なぁ」

「そうそう」


私の怒鳴り声など、ふたりのヤンキーは気にも留めない。


「それよりもっと食え」


目の前に突き出される紙コップ三杯目。
すでにおにぎりを食べられてしまった私は腹の虫に逆らえず、出されるだけ平らげたのだった。


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