私を作る、おいしいレシピ
それから、両親は私に関する期待をすべて放棄し、弟に向けた。
全寮制の有名私立中学を受験させ、見事合格した弟の龍矢(たつや)は、去年の春に出て行ったきり実家に戻ってきていない。
正月くらい帰ればいいのにと思うけれど、どちらかといえば親のほうが近くまで会いに行っているようだ。
おそらくは、戻るなと釘を刺されているんだろう。
エリートコースに乗る弟に、私の影響はよくないと思われているんだ。
お姉ちゃん、悲しいよ。
小さい時は龍矢だけが私の味方だって思ってたんだけどな。
そんなわけで両親は、私に関しては、やっぱりお金さえ置いておけば解決するもんだと思っている。
本来ならそこでぐれてもいいとこよ、って自分でも思うけど。
反抗して夜の街を歩いて身を持ち崩したところで、私になんのメリットもない。
間違いが起こって妊娠なんかしちゃったら自分が苦労するだけだし。
私が何をしたってあの人たちは困ったりもしないでしょう。
だったらとっとと独り立ちして、縁を切ったほうが楽だ。
今、私は親からもらえるお金のほとんどを、高卒後の生活のためにためている。
お昼ご飯をおにぎりだけにしていたのもそのせい。
レベルを下げて入学しているんだから、当然私は成績上位者であり、勧められるままに生徒会にも入っている。
内申はばっちりだと思うので、あとは素行よく暮らしていけば、そこそこのところには就職できるだろう。
あと一年、ここでの暮らしを終えたら、私は変わるんだ。
もう誰にも踊らされない。
自分のしたいことを自由にする。
お金も自分で稼いで、自分だけの城を持つんだ。
夜ご飯を食べ終わった後は、自分で片付けてお米を研ぐ。
母親はたいてい夕飯を食べてくるので、家政婦さんが作るご飯は私の分だけだ。
三合分のお米をすすぎながら、そろそろお米買わなきゃなぁと思う。
アイツらいっぱい食べるから、買ってもすぐに無くなっちゃうよ。
湧きたつ湯気、ド付き合いながら話すふたりのヤンキー。
思い出すと、ほわん、と胸が温かくなる。
不思議。
食べ物の温度って、そのまま一緒に食べた人への印象に繋がるのかな。
ヤンキーなんて絶対関わり合いにならない人種だって思ってたのに、今の私にとってあのふたりが一番あったかい。