私を作る、おいしいレシピ
お母さんは冷たい人じゃない。ただ忙しいだけ。本当は私たちと居たいのに、仕方なく出かけてるんだ。
そう思って、私も頑張って言った。
「大丈夫。わたし、寂しくないよ」
偉いねって言ってほしかった。もしくは、嘘なんてつかなくていいのよ、って。
ただ、母を思いやっての言葉だとを気づいてくれたらいいと思ってた。
でも、予想とは反対に、母はとても安心した顔をしたのだ。
「そう、なら大丈夫ね」
あの時の、上向きに弧を描いた赤い唇は今も私の目に焼き付いている。
無理していった言葉は、そのまま、母の中で本物になってしまった。
振り返りもせず、出ていく背中。閉ざされる扉。バタンという音とともに、背中で鼻をすすりだす弟。
寂しさが大きな波みたいに覆いかぶさってきて私の中を埋めていく。
口を開けたけど、声は出なかった。
待って、今のやり直させて。
願っても、もう言えない。
反対のことを、私は言ってしまったから。
言ってしまって受け入れられてしまった、その時点で、たとえ嘘でも本物になる。
人に迷惑かけないように。困らせないように。
そう思えば思うほど、私は嘘つきになる。
肯定されてしまった言葉は、自分の中でも無理矢理に本心にしていくしかなかった。
そんなことを繰り返しているうちに、もう、どれが本心なのか自分でも分からなくなってしまった。