私を作る、おいしいレシピ

「んだよ、そんな貧相な胸触ったって欲情なんてしねぇって」

「変態。エロヤンキー!」

「本当のこと言われても別に傷つきもしねぇよ」


ちくしょー。もうちょっと傷つけよ!


「もう知らない! 仲道くんの馬鹿」


自転車を奪い返そうとするも、コメが重くて持ち上がらない。
自分の力のなさと小ささを呪うわ。

鼻息を荒くしながら自転車を起こそうとしている私を笑いながら、大きな手がハンドルと荷台に伸びてくる。仲道くんがひょいといとも簡単に自転車を起こした。


「悪かったって。後ろ乗れよ」

「や、やだよ」


さっき貧相って言われたばかりで、そんな胸が当たるようなことしたくないよ。


「いいから。でなきゃお前を置いていくわ」


軽やかに自転車にまたがって、仲道くんはひとりで行ってしまおうとする。

どこに行くんだよ。
アンタ、私の家の場所も知らないくせに。


「米ドロボー!」

「はは。本当にそうされたくなければ乗れよ」

「ちくしょー」


大きな声で、優等生の私からは出ないような言葉を叫んでみた。


「ばーか、ばーか、エロヤンキー!」


周りの人が怪訝な視線を向けてくるのにも気付いているけど、不思議に気は引けなかった。
悪口を背中に受けても、仲道くんが笑っているからかな。

思いつく限りの悪口を、大声で背中にぶつけてみる。


ああ、なんか気持ちいい。

高校落ちたー、悔しい、ちくしょー。
家にいない家族。寂しいぞ、ちくしょー。


仕方ない、期待しない。そうしたら傷つかずにすむもの。
そう思って諦めていた。
その選択を間違っていたとは思わないけど。

ちくしょーって、そう叫ぶだけで、気持ちって軽くなるんだ。
どうにもならなくても、心だけは軽くなる。

ああ、初めて知った。
これって結構気持ちいい。


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