私を作る、おいしいレシピ
「ちっくしょー。仲道くんの馬鹿―!」
「はは」
仲道くんはずっと楽しそうに笑ってた。私から、もう何の文句も出なくなったころ、おもむろに振り向いて笑う。
「ハジメ」
「え?」
「俺、一って書いてハジメだから。名前で呼べよ」
「一って、数字の一?」
「そう」
「もしかして長男?」
「いや? 次男。一月生まれだかららしい」
「何それ」
思わず吹き出してしまった。
一でハジメ、かあ。でも、一番大切にされているようで、いいかも。
瑞菜なんて意味も分からない名前よりずっと。
「じゃあ、イチくんって呼んでもいい?」
「へ?」
「ハジメくんより、イチくんってよくない?」
「あー、まあなんでもいいや。ほら、乗れって瑞菜」
相変わらず、イチくんの発音だと野菜の方の“ミズナ”なんだけど。
それでもいいか。
親に呼ばれる名前より、なんだか素敵に響くような気がしてる。
素直に荷台のところに腰かけて、ダボついた仲道くんのパーカーをつかむ。
「しっかり捕まってないと危ないぞ。前も重いし後ろも重い」
「失敬な! 重くないわよ」
「揺れるから気をつけろよー!」
バランスというものは、スピードが乗ったほうが安定するらしい。
最初ふらふらだった自転車は、やがてまっすぐ走り出した。
危ないからとさっきより密着してしがみついてみたけど、なんか落ち着かないな。
これなら、走って追いかけたほうが良かったかも?