私を作る、おいしいレシピ


イチくんはデカいだけあって自転車をこぐのも早かった。
二人乗り(しかも米つき)だというのに自分でこいで帰るより早く着いたと思う。


「あ、ここ、私んち」

「へぇ。でっかい家じゃん。瑞菜、お嬢様かなにかなのか?」

「まさか。親が見栄っ張りなだけ」

「ふうん」


イチくんは自転車を止めるとかごから米を出してくれた。


「ほら、重いぞ」

「……入っていかないの?」


てっきり上がっていくもんだと思っていた私は、出すお茶菓子のことまで考えていたというのに。


「土曜だし、親いるんじゃねぇの?」

「いないいない。うちに家族がいることなんてほとんどないから」

「……それって」


彼の頬が緩んだのを見て、迂闊な自分の発言を後悔する。
そうだよ、こいつはエロヤンキーだったんだわ。


「そういう誘いじゃないから! 変なことしないでよね!」

「そんな貧相な胸に欲情しねぇって言ってんだろ」

「うっさい!」


頭を叩くと、こつんと人差し指でおでこを押し返された。

ちゃんと手加減、されてるんだよね。私は本気で叩いているのに。
そう思えば、勝手な思い込みかもしれないけど、イチくんは無理矢理女の子を組み敷くとか、そういうのはしない気がした。


「重たいから持ってきてよ」

「おう」


私の後ろにくっついてリビングまで入ったイチくんは、部屋を見回して落ち着かなさげに足をぶらぶらさせていた。
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