私を作る、おいしいレシピ
「……洒落た家だな」
「そうかな。イチくんちはどんな家?」
「平屋の古い家。木造で、横に広いっつーの? 縁側があって。小さいときはじーちゃんとそこで将棋をしてた。
土間が広くてさ。すっげ寒いの。すぐ近くに台所があって、その奥が居間?っつーか和室。あとは廊下に沿って、じじいたちのへやと親の部屋と俺の部屋と兄弟の部屋とって並んでた」
「すごいね。何してもすぐばれそう」
「うちはふたり兄弟で、よくいたずらしては廊下掃除をさせられたな。兄貴は大学行って今ひとり暮らししてて。だから俺も暇っていうか。家にいてもつまんねーし、誠と遊んだり、兄貴んちに泊まったりしてる」
「へぇ」
なんか、聞いているだけであったかい家庭なんだろうなぁって思う。
例えば自分の部屋にいても、誰かがいる物音がするっていうか。
そういうのって毎日だとうざいのかもしれないけど、私には新鮮かも。
「私は、……ほとんどひとりだから」
イチくんは目線を下げて私を見た。
「平日の私のご飯は、家政婦さんが作るの。でも、ずっといるわけじゃなくて昼間五時間だけ。洗濯と掃除と買い物と夕飯づくりをして帰っていく。だから私の夕飯はいつも冷たいの。レンジでチンするのも、ひとりだと面倒くさい。あったかい、湯気が上がったようなお鍋なんて、イチくんがくれるまでずいぶん長いこと食べてなかった」
「……寂しいやつだったんだな、お前」
彼の瞳に、同情的な色が乗る。
胸がざわざわした。かわいそうな子、なんて思われるのは嫌だ。
「別に寂しくなんかないよ」
「嘘つけよ、泣きそうな顔してんじゃん」
わざと笑って見せてるのに嘘を見抜くのはやめてほしい。
お母さんは笑ったのに。信じたのに。
だから本当に私は平気なんだって思っていたのに。
――なんであなたは簡単に見抜くのよ。