私を作る、おいしいレシピ

そんなわけで、お昼はいつもさすらい人になる。

天気が良ければ屋上や花壇で食べるんだけど、しかし今日は雨だし、そろそろ寒いし。

いつもだったら雨の日は理科室とか生徒会室とかなんだけど、先日盗難騒ぎがあってから、特別教室も使用しない日は鍵をかけられるようになってしまったんだよね。
空き教室というと旧校舎くらいしかないかな。


旧校舎とはその名のとおり、二年前に校舎建て替えがあったときの前の校舎で、隙間だらけで暖房の効きも悪いんだけど、音楽室とか図工室とかの一部特別教室があるので、壊されることはない。

教室は全部新校舎に移っているので空き教室は各部活の部室として充てられている。

新校舎とは渡り廊下でつながれているけれど、昼休みはひとけがないだろう。

ただここは、授業サボりたがるヤンキーがたむろってたりするから、見つかると面倒なんだけどね。
そう思いつつ、旧校舎へと足を踏み入れたとき、私は目ではなく鼻を疑った。


やたらにいい匂い。コンビニのおでんコーナーから漂うみたいな、食欲を刺激する香り。

なにこれ、自然によだれ出てきたけど。

調理室は新校舎にあったはずなんだけどなーと、匂いの元をたどる。
どうやらたくさんある空き教室のひとつからそれは漂っているらしい。

窓からこっそり覗いてみるも誰もいないようだ。
ならば、とほんの少し扉を開け、恐る恐る中へ足を踏み入れて、私は目が点になった。


……カセットコンロがある。
そしてコンロの上には小ぶりの土鍋が乗っている。

ぐつぐつ、という音は久しく聞いていなくて、おいしい匂いと相まって、口の中はもうよだれでいっぱい。

こういうの、童話であったよね。女の子が熊の家に迷い込んで、ご飯食べたり椅子壊したりベットで寝ちゃったりするやつ。


「食べても……いいかな」


三大欲求に逆らえずにつぶやいて、はっと気づく。

いやいやいや、おかしいでしょ。
こんなところに鍋あったらダメでしょ。つか、火災報知器とか鳴らないのか?


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