私を作る、おいしいレシピ
……違う。
私は傷つけるのが怖いんじゃなくて、決断するのが怖いだけなんだ。
だって、あの場で嘘をつくことで、いったい誰を守れたっていうの?
マコちゃんの嘘は、私を守るためのもの。
でも私の嘘は……。
イチくんも、マコちゃんも、どちらも傷つけるものでしかなかった。
「……うっ、えっ、もう……最悪だ」
突っ伏したまま、思い切り泣いた。
思えば、こんな風に感情をあらわにするのもすごく久しぶりだったかもしれない。
一度、呼び鈴の音で我に返ったけれど、動くのも面倒くさくて放っておいたら、そのまま寝てしまった。
次に目が覚めたのは、真夜中に、母親の声でだった。
「ちょっと瑞菜、玄関前に鞄落ちてたわよ。それに夕飯も食べないで。あんた何してたの?」
扉を開けられて、真っ暗な部屋に光が入る。まぶしくてお母さんの顔はよく見えない。
母の影が、ポンと投げ捨てたのは私のカバン。
誰が持ってきてくれたんだろう。
クラスの友達?
住所を頼りに来れないことはないだろうけど、でも私の家を知っている人はいないはずだ。
唯一、この家まで来たことのある人は一人だけ。
「それと、学校の先生から電話あったわよ? 最近素行のよく無い子と付き合ってるんですって? はめ外すのやめてよね。私やパパの面子も考えてちょうだい。生活に困らないくらいのお金、ちゃんとあげてるでしょう?」
お金は確かにくれる。過剰なほどだ。
だけど私は、ずっと生活には困ってたよ。
心が満たされなくて、必死に自分で前に進もうとしてみたけど寂しくて、生きてるのがしんどいって、毎日のように思ってた。
未来に期待するしかなくて。ただ現実から逃れるように、卒業後の生活だけを夢に描いて日々を生きてた。
でもふたりに出会えて、ようやく楽しいって思ったんだ。生きてる今が一番楽しいって、また明日が楽しみだって、そう思えるようになったのに。
無くしちゃった。
もう戻れない。
イチくんの隣にも、マコちゃんの隣にも行けない。
私が大切だったあの空間は、私が自分で壊してしまった。