私を作る、おいしいレシピ

イチくんはひとしきり笑うと、真面目な顔になった。


「……賭けをしようか」

「賭け?」


また何を言い出した?


「今度会ったとき、俺が作った飯をうまいってお前が言ったら、俺の勝ちな?」

「何? 今更」

「お前、服装や態度で反抗してた俺とは違って、真向勝負しだろ? 正直、格好いいなって思ってたよ。俺とは違って、戦い方を知ってる。……だから俺は、自分がお前に釣り合うとは今は思えないんだよな」

「なに? ……なんなの」


嫌な予感がする。
まるでお別れを暗示させるような。


「しばらく連絡取らない。いったん離れるのはいい機会だと思ってる。俺は、お前に負けてばっかりなのが悔しいんだ」

「なにそれ。いつ負けたっていうの。……やだよ」

「俺は俺で頑張る。そんで、自分の店もてたら、必ずお前を呼ぶから」

「やだよ。それまで会わないなんて言わないよね」


イチくんはあいまいに笑うだけだ。それは肯定の意味だからだろう。

お店を持つって、いったいいつまで待てばいいの。
そんな簡単じゃないでしょう? 年単位で待てって言うの?

私は、どうすればいいんだろう。
好きだといえばいいんだろうか。
離れたくないと泣いて訴えればいい?

でもそれって、正しいの?

もう彼は迷っていない。決断している彼を揺るがすのは、今度は甘えになるのかしら。

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