下手くそな恋を泣きながら


会社を出て、バスに向かう途中、私の横を一台の車が停まった。

助手席の窓が開いて

運転席にいる部長が「送るから乗れよ」なんて、どんな意図があるかわからないけれど、助手席に乗り込んだ。



「今夜の予定は?」

「特別。家に帰って夕飯食べて、お風呂に入って寝るだけです」

「それなら、飯、付き合えよ」

走り出した車は繁華街からほど遠い、小高い山道に一軒、オシレャなレストランの前で停まった。


「街中から外れたこんな所にレストランがあるなんて知りませんでした」

「完全予約制だし、普段はなかなか来ないような店だよな。」

完全予約制?

その言葉がひっかかる。

こんな店、誘っても来るか来ないかわからない私のために予約するわけない。

もしかしたら私は・・・一緒に過ごす予定だった恋人の代わりに連れてこられたのかもしれない。

そう思うと、心から喜べなくて

この間星を見た夜はコンビニのおにぎりで済ませられたつまらなさのほうが鮮明に甦る。

恋人のためなら

部長もこういうお店を選ぶんだ。その事が、つまらない。


まるで、その恋人に妬いてしまってるかのように

私は今、苛々していた。


< 113 / 147 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop