下手くそな恋を泣きながら


夜景を楽しむためなのか、落ち着いた照明の店内には大声で話すような客など一人もいない。

ウェイターに案内された窓際の席は綺麗な夜景が広がっているけれど、私のためじゃないことを思えば感動も薄らぐ。

頼まなくてもコース料理が運ばれてくる。


部長はいつもと違った雰囲気で、会話よりも景色と料理を楽しんでいるようにも見えた。

これが大人の世界なのかしら。

私の外食と言えば、ジャンクフードばかりで、とてもこんな店とは縁遠い。


「部長はよく、こういうお店に来るんですか?」

「まさか。

連れて歩くような女性もいないしね。」

恋人がいるくせに。

本当は恋人と来る予定だったくせに。


「あまり、口に合わないか?」

食事が進まない私のお皿を見て、心配気に聞く。


「いえ・・・ただ、こんな店初めてで、緊張して胸が一杯なだけです。」

そんなこと言った後、いつもの部長なら、私をガキ扱いして笑うのに

今日の部長は少し違っていた。


「森山がこれから経験していく初めての事を一緒に体験できたら・・・俺は嬉しい。」穏やかに頬笑む。

誰のために用意したこの場所で、よくそんな事が言えたもんだと思う反面

もしかしたら

本当に私のためにこのお店の予約をとってくれたのかもしれない。と・・・

淡い期待をしてしまう。

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