下手くそな恋を泣きながら


そんな理由で恋人候補に選ばれて、何が嬉しいと言えるのだろうか・・・。

部長の優しさに、心地よさを感じていた自分が惨めで堪らない。


それでも

私の情けなさも

部長の弱さも・・・

腹立たしいくらい

腹がたたない。

その痛みを知ってるから・・・

でも

私は

逃げるために誰かと付き合うことなんかできない。

好きな人と結ばれない代わりを作りたいなんて思えない。

だから

同じ痛みを知ってるからこそ、許せないくらい腹が立つこともある。

「私を、部長の恋人の代役になんてしないで下さい。」


これ以上ここにいたくなくて、立ち上がった私の手を取り、部長は眉間に皺を寄せた。

「なんの事を言ってるのかさっぱり分からない。」

少し怒ったその口調に、一瞬、負けそうになったけれど

その手を振りほどいて

逃げるように店を飛び出した。

その後は帰り方もわからないのにがむしゃらに走って

心臓が爆発しそうで

息が苦しくて

涙が止まらなくて

悲しくて

辛くて

道端にしゃがみこんだまま

声をだして泣いた。


部長は私を好きなんじゃない。

一番好きな人の好きな人になれないから

だから

私を利用した。

諦めるために私にキスをしたんだ。


そのことが

その現実が

この胸に一瞬でヒビをいれて粉々に打ち砕いた。



どうしてこんなに痛いのか分からないくらい胸が苦しくて痛い。

こんな気持ちは・・・いつ以来だろう

どうしてこんなに

叫びたいくらい

悲しいのだろう・・・。




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