下手くそな恋を泣きながら





今は森山彩葉という一人の女として先生の前には立てない。

今の私にできるのは

森山彩葉という先生の元教え子として、側に寄り添うことだけ。


そう。


私は先生に憧れたたくさんいる生徒の中の一人。

だけど

雑木林の中の一本の木なんかじゃない。

私もちゃんと

先生の特別な生徒の一人。

今も昔も・・・そうなんだよね。きっと

気のきいた言葉一つかけれない私だけれど

触れ合う頬に先生の温かい涙が伝わって

まるで一緒に泣いているようだった。

「ありがとう」

一人言のように

何度も繰り返し掠れた声が聞こえてくる。

抱き締められて

身動きのとれない私は頷く事もできないけれど、きっと先生を思ってる気持ちだけは伝わってくれてると信じたい。


「先生・・・私、先生の生徒になれたこと、誇りに思ってるよ」

何も言わずに頷いた。

先生の瞳から零れる涙が私の頬を流れて落ちていく。


それだけで充分だった。

それ以上の奇跡なんてないとさえ思えた。


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