下手くそな恋を泣きながら
「こんな所で会ったのも何かの縁だろ。プラン無しなら俺が案内してやるよ。」
そう言って立ち上がる部長を私はきょとんと見つめた。
「中学まではここに住んでたんだ。大体は案内できるぞ。」
「それなら・・・お願いします。」
上司と部下と言えど知らない者同士でもない。
お互い特別な予定がないなら、部長の言った通り、ここで会ったのも何かの縁なのかもしれないと思い、頷いた。
公園の駐車場に停めてある部長の車に乗り込むと、部長はf
直ぐ様車を走らせた。
「プライベートと仕事は分けたいから、プライベートで部長って呼ぶのは禁止な。」
真面目な顔をして言う部長・・・槙原さんに、私は少し緊張しながら頷いた。
展望台。
一度テレビで紹介されたことのある老舗の和菓子やさん。
足湯。
行く先々で知る、部長の幼い頃の話。
職場の偉い人。5年間一緒に仕事をしてきてそれしか知らなかった。
槙原部長のことをたくさん知ったような気がした。
車の窓の外には
沈み掛けた夕日が名残惜しそうに本の少し顔を隠しながら
辺り一面を淡いオレンジ色に染めている。