下手くそな恋を泣きながら
夕方、来た道を戻って歩き出す。
泣きつかれた先生の手をしっかり繋いで。
辿り着いた民宿。
4畳1間の客室に着いた途端、泣いて失ってしまった水分を取り戻すかのように先生は500ミリリットルの水をあっという間に飲み干した。
「俺、これからどうしよう・・・どうすれば良いのかな・・・」溜め息と一緒に吐き出された言葉に私はくすくす笑った。
「歳とって、心も衰えちゃったんですか?」
「・・・失礼な」
「誰かの理想の先生でいなくてもいいじゃないですか」
そういつか先生が私にかけてくれた言葉を思い出す。
″友達に好かれるためだけのキャラ作りなんて意味がない″
「春坂先生らしくいて下さい」
″そのままの彩葉で充分なんだよ。″
先生が教えてくれたこと。
先生が見失ってること。
時に現実は残酷かもしれない。
それでも生きていれば良いときも悪いときもある。
大切なことは全部先生から学んだ。
先生の言葉だからこの身に染み込んだ。
「彩葉・・・真っ直ぐに成長してくれたね」
そう言って優しく笑った先生の笑顔はどこかスッキリしたようにも見える。
そんな時、先生の携帯が鳴った。
もしかしたら奥さんかもしれないと思い背を向けると、直ぐに歓声にも似た先生の声が部屋の中に響いた。