下手くそな恋を泣きながら


驚いて振り替えると

泣きながら笑って電話の相手と話をしている。

何があったと言うのだろう・・・

電話を切った先生の側に駆け寄ると、直ぐにその腕の中に抱き締められる。

「意識が戻ったんだ・・・っ」

それはきっとネットの記事で見たあの少年の事を指しているんだろう。

嬉しそうな声。


「良かったね。」

その背中に手を回して抱きしめ返す。

先生に触れることができるのは

きっと・・・これが最初で最後だと分かっていたから

力の限り、思いきり

強く

強く抱き締めた。



好きだなんて言えないよ。

だって

大好きだから。


大好きだから

幸せでいて欲しいから

伝えたくないと

その温もりを感じながら誓った。


失恋なんかじゃない。

昔も今も

先生は先生なりに私をちゃんと見てくれている。

それが私の望むような形じゃなくても

愛情にはたくさんの形がある。


「先生・・・こんなとこでぐずぐずしててもいいの?」

軽くその背中を叩くと

思い出したように携帯を手に取り、奥さんに電話をかける。


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